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心房細動に対するカテーテルアブレーションの変遷

20年以上前、心房細動はアブレーションで治せないと考えられていた

カテーテルアブレーション治療は、1980年代前半に始まり、1990年に入ってからは頻脈性不整脈に対して有効な治療法として全世界で施行されるようになりました。しかしながら、当時、心房細動はカテーテルアブレーションでは治せないと言われていました。そんな中、1990年代中頃、フランスのボルドー大学のHaissaguerre(ハイサゲール)先生が世界に先駆け、心房細動の発生の機序を解明し、心房細動に対するアブレーションを始めたのです。 私は、その治療法を学びたいと考え、1996~1998年にHaissaguere先生のもとへ留学したのです。

Haissagerre先生の画期的な発見とそれに基づいた心房細動アブレーション法

前述[ 3) 心房細動は、どのように発生するのか?] したように、心房細動は連続 的な異常電気信号により発生するのですが、Haissaguerre先生はその発生源を探したのです。その結果、図6のように、多くの発作性心房細動患者様は、肺静脈開口部あるいは肺静脈に迷入している心筋からの連続的な異常電気信号によって心房細動が発生していることを突き止めたのです。

 

肺静脈:血液が肺を通って酸素をたくさん含んだ血液に変わり、肺静脈という血管を通って心臓に戻ってくるのですが、その戻ってくる部屋が心臓の上部にある左の心房(左心房)です。この肺静脈は、左心房の後ろ側に開口しており、左の肺からの肺静脈が2本、右の肺からの肺静脈が2本、計4本あります(1本が親指程度の太さです)。また、左心房の開口部から、1~2cmほど左心房の筋肉が肺静脈壁に迷入しています。

 

私が、ボルドーに留学して目にしたものは、この肺静脈開口部あるいは肺静脈に迷入している心房筋から発信される異常電気信号をカテーテルで焼いていたのです(つまり、異常電気信号をテロリストに例えれば、現行犯逮捕するようなものです)。うまく焼灼できれば、異常電気信号は消失し、心房細動になることがないのです(心房細動に対する起源アブレーション法:図7)。この方法は、1998年に論文として発表されました。

図6 肺静脈の解剖とそこからの異常電気信号の発生
図7 心房細動に対する異常電気信号起源アブレーション法

心房細動に対する起源アブレーション法の欠点

私は、このアブレーション法を学び、1998年にボルドーから帰国し、このアブレーション法を日本で初めて開始しました。しかしながら、この治療法にはいくつかの欠点がありました。

 

①治療中に異常電気信号が出てこなければ、焼くことができない。

②複数箇所からの異常電気信号が出た場合、すべてを焼けない場合がある

③肺静脈の周囲を焼くため、焼灼に伴い肺静脈が狭くなる(狭窄)の併発症のリスクがある。

 

以上の欠点のため、本アブレーション治療を行っても再発が多く、治らない患者様が多くいました(成功率は50%以下)。

これは、私だけの悩みではなく、Hassaguerre先生や本アブレーション法を行っていた全世界の先生の苦悩でもあったのです。

Haissaguerre先生はやはり天才だった

心房細動における異常電気信号に対する起源アブレーション法の限界が取りざたされる中、Haissaguerre先生により新たなアブレーション法が2000年に考案されました。それは、図8に示すような個別肺静脈隔離アブレーション法です。

その方法は、画期的なものでした。心房細動の発生機序である連続的な異常電気信号の多くが肺静脈開口部心筋や肺静脈内に迷入した心筋から発信されることから、Haissaguerre先生は、4本の肺静脈の開口部に対し、1本づつ開口部の周囲を囲む様に焼くことで、異常電気信号が心房に伝わらないようにしたのです。

 

つまり、電気信号は筋肉を伝わって広がっていくため、やけどの囲いができると、その外側の筋肉と電気的な交通がなくなるため(電気的隔離)、囲いの内側から異常電気信号が発生しても、そのやけどの囲いの外に伝わっていかないという原理です。

この方法により、肺静脈開口部内のどこから異常電気信号が出ようが、何箇所から出ようが、心房に伝わらないため、心房細動が発生しないということです。

 

すなわち、テロリストを現行犯逮捕するようなピンポイントで焼く「異常電気信号の起源アブレーション法」から、テロリストが出てくるであろう道の出口にバリケードを作ってしまうような効率的な「個別肺静脈隔離アブレーション法」への画期的な治療の進化です。これにより、成績が向上したのです。

図8 心房細動に対する個別肺静脈隔離アブレーション法

拡大肺静脈隔離アブレーション法へのさらなる進化

「個別肺静脈隔離アブレーション法」は、現在の心房細動に対するアブレーション法の基礎となっています。さらに成績を向上させるため、私は、2003年に「拡大肺静脈隔離アブレーション:図9」を考案しました。

これは、個別肺静脈隔離アブレーションのように肺静脈開口部を1本づつ焼灼するのではなく、2本まとめて大きく囲う焼灼法です(左の上下2本の肺静脈と右の上下2本の肺静脈)。

 

その利点は、

① 個別肺静脈隔離アブレーションよりも広い範囲を隔離するため、肺静脈の開口部から少し離れた部位から出現するような異常電気信号さえも抑えきることができる。

② 肺静脈開口部から離れた部位を焼灼するため、肺静脈狭窄のリスクが低下する。

 

この方法により、さらに成績が向上するともにリスクが軽減されました。 しかしながら、この方法は個別肺静脈隔離アブレーションよりも広い範囲を焼灼するため、手技としては難易度が高く、また、私はレントゲンの透視下で行う方法(レントゲンで心臓の影を見ながら焼灼)として発表したため、高度な技術を要する病院でしかできないという欠点がありました。その後、三次元マッピングシステム(車のナビゲーションシステムのようなもの)と組み合わせる方法が海外の先生により考案され、レントゲン透視では心臓の解剖を把握できない先生でも安全に、拡大肺静脈隔離アブレーションができるようになり、現在では全世界で施行されています。

図9 心房細動に対する拡大肺静脈隔離アブレーション法

肺静脈隔離アブレーション法の技術革新

拡大肺静脈隔離アブレーションは、三次元マッピングシステムの導入により、多くの病院で施行されるようになったとはいうものの、それでも技術的に難しい手技であることは事実です。 最近では、バルーンカテーテルを用いた肺静脈隔離アブレーションができるようになっています。これは、肺静脈の開口部にバルーンカテーテルを挿入し、先端の風船を膨らまし、肺静脈開口部にはめ込んで密着させ、風船部分をマイナス88.5℃まで冷やして肺静脈周囲を一気に焼灼する方法です(クライオバルーンアブレーション)。これを4本の肺静脈開口部に行うのです。

 

この方法は、手技が簡便であるため、いままで肺静脈隔離アブレーションができなかった病院でも行うことができるようになっています。その効果は、個別肺静脈隔離アブレーションと同等と考えればよいでしょう。

国家公務員共済組合連合会

横須賀共済病院循環器病センター内科

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